私を知らないで
- 2012.12.14 Friday
- 13:30
書評を読んで面白そうだなと思ってから手に入るのに一か月くらいかかった。
私をしらないで
白河三兎
文庫での新刊らしいのに、このやる気のなさはなんなのか?集英社文庫。
両親の転勤により定期的に「転校生」となる主人公黒田。
13歳でとある横浜のはずれにある中学校に転入するところから物語ははじまる。
転校を繰り返し、クラスに溶け込む処世術を身に着けている黒田少年からみた各人物像。
クラスをまとめる女王、ミータン。その取り巻きであるアヤ。
嫌われ者でキヨコと名付けられている美少女・新藤ひかり。
後から転校してくるイケメンだけど妙に暑苦しい高野。
黒田の視点からみているので最初は平面的でシニカルな人物像が突然角度を変えて読み手に迫ってくる。
黒田君からみた彼らの印象が変わった瞬間を読者も体感する。
それぞれがみせる別の人物像。
隠れていた背景。
それらを必死に乗り越えようと奮闘する登場人物たち。
その辺がミステリ枠の賞(メフィスト賞)でデビューした人っぽいかもしれないがこれは、平成の青春小説だ。
黒田が、高野に放ったこの言葉にぐっときた。
「命は軽いんだ。自分の命の重さを決めるのは他人だ。僕は高野の命を重くする一人だ。だから言える。高野がしたことは僕にとって正しいことだった」
命は軽い。その重さを決めるのは他人。
なるほど。
そうかもしれない。
例えば、死にたくなった時、それを押しとどめるのは、親だったり友達を悲しませたくないって気持ちなんじゃないだろうか?
そして、この言葉もこういうと語弊があるかもしれないが、311後の社会だからこそ出てきた言葉としてリアルに響くんじゃないかと考えさせられた。
「足の裏で屍の感触を感じて生きろ。謝るな。償うな。死者の恩恵を受け入れて、それを無駄にするな。」
誰かがどこかで
生きていくことは忘れていくことって言ってたな、とふと思い出した。
生きていく限り、記憶は積み重なり、変化していく。
その時の気持ちはその時のもので、どうしても後々変容してしまう。
覚えているつもりでも、いつの日か色褪せてくる日がくるだろう。
結果的に切り捨てる、忘れ去ることになっても、それは、その人が生きている証。
子どもにとっては成長なのだが、ここに登場する主要人物はそれを畏れる。
忘れてしまう自分が薄情なのではないかと。
忘れられたことのある自分が傷ついた事があるから。
痛みを早くからしった子どもたちがおそれ、あがく。
けれども作者は送り出す。
忘れること、忘れてしまうことに脅えてはいけない。
前を向いて生きてゆけ
そう作者が語りかけてくるような意思を感じる小説。
若い人にぜひ読んでもらいたい。
忘れても、また関わりあって思い出せばよい。
それは、生きているからこそできること。