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母親との関係、女の子同士の関係を描いた小説を続けて読んだ。
ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ 辻村深月
贖罪 湊かなえ
まず、ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。
山梨に住む幼馴染みのチエミが失踪。そして、母親が刺され亡くなっていた。
仲の良かった母娘に何が?
東京で結婚しフリーライターとして暮らすみずほは、故郷へチエミを探す手がかりを得るため、以前の友人達と連絡を取るが・・・
30歳を越え、揺れ動くそれぞれの立場の女性達、それも地元に残ったものと上京したもの、結婚して子供がいるもの、いないもの、独身、かつて他愛もない話をしていた友人達の状況は様々。母娘関係でもみなそれなりに葛藤を抱えている。
周囲の人が語るチエミ。話を聞くたびにみずほはじわじわと自身の姿もまた鏡のように見ることになる。
そのくだりが切迫感があってなんともいえない。
私が高校生の時にも、将来の結婚等に響くからと優秀なのに県外の学校はNGという子が一定数いた。
けれども、私には親のために20そこそこで親の近くで結婚し、やれ地域の祭りだ、行事だといっては女性達がかり出される社会に馴染むことは出来ないと今でも思う。
結果としてそうなったとしても、そこに親の意図が存在し私が選択した人生ではないことを後悔する時がくる。
嫌なことがあったときにきっと親のせいにするだろう。
ある枠組みがある方が安心して生きていけるタイプや、ずっと知っている世界だからこそ馴染んで生きていく事の方がスムーズな人も一定数いることはわかっている。
だから、この「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」で描かれるような格差や相反する気持ちは半分わかるが、半分わからない。
まず、友達同士での立場の違い。
現状男性よりも多くの分岐のある女性の人生。
これをはかり出すと女同士「友達」が消滅する可能性がある。だから私は立場を比べることに意味はないと思っている。
自分の身近なことを話してばかりいたら、比べざるを得ない人たちも多くでてくるでしょう。
地元で、実家にいたり安定した仕事だったりである程度余裕があると
その輪から抜け出した人間をズルイとか裏切り者と言いたくなる人も出てくるでしょう。
(都会はその点方々から人がくる地域が多いので、親の代からという関わりが薄い点で抜けられない閉塞感みたいなものは地方ほどない。下町とかだとまた違うかもしれないが。)
けれども、何かの前提が崩れると大きく変わるのが環境なので、それで人と自分を比べて焦ったり落ち込んだりするなんて、本当に不毛。
そして、母娘の関係に対する娘の葛藤も理解度は半分である。
母は過干渉でも放任でもなかったし、私自身の進路について
常に淡々としていて、ちょっと抜けていた母を頼りないなあと感じたこともあったけれど干渉されなかったというのは、母の素晴らしい美点であるということに気付いたのは大人になってから。
そんな母が、結婚が決まったとき
「行き来しやすい距離で良かった」
とだけ言った。
自身は遠方であまり実家に帰省できなかった事についてもう少し深く考えて地元に帰りやすい土地に嫁げば良かったと思ったといっていた。
そんな娘の私は、実は全く関東圏に住む気がなく、近くても関西圏に住む
出来れば外国だ!って思っていたのだから、人生どうなるかわかりません。
そして、自分自身がどういう母親であるかはまだよくわからないけれど。
自分も、子供も、狭いフィルターを通した価値観だけにならぬよう、それを押しつけないよう自由にのびのびと生きてゆきたいし、子供にはそう育って欲しい。
そう思わせる小説でした。
一方の贖罪。
辻村さんの方が、母親の態度に振り回されながらも断ち切れない親子の関係を娘の目線から書いているせいか、救いがあり目線が優しい。
なんだかんだいっても母親だから、娘だから、友達だからとどこかに良心というか温かい雰囲気が漂う気がするのに対し
湊さんが書く贖罪は、母親、娘、友達それぞれの関係に救いがない。
それぞれが非常に冷徹な目線を持ち、酷評し、切り捨てる。
時にその本人に向かって憎悪をむき出しにする。
なのに、どうしても一点に捕らわれて、みな自分を追い詰めるだけ追い詰めてしまうことの悲劇。
5章からなる話で、5人の視点から一つのことが語られる手法は告白と同じなのだが告白以上にかいま見える悪意がえげつない。
なのに今回も読ませる力が凄い。
ちょっとだけと読み始めたら止まらなくなり一気読みしてしまった。
しかし、女達のこの強さはなんだろうか。
桐生夏生が描く女性に似ている気がする。
それも、生々しさを取り払って無機質にしたような感じ。
ぎりぎりのところで虚勢をはったり守ったりして自分を保っているだけに、ひりひりするし、やっぱり読後感が悪い。けどやめられない。湊さんの小説は麻薬のようだ。
身体(心)に悪いのに読むのをやめられないw
しかししかし、母娘の関係の複雑さに戦慄する。
わたしはちょっとタイプが違うのかな。母との葛藤は心理的な面で殆どない。
父との関係でぶんどられたからかなー?
意外と母の干渉しないスタンスが私には良かったのかもしれない。
同じように育てられた弟はちょっと大変だったのよね。この話はまた別のところで。