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もうDVDでてしまっているんですね。
これは、映画館で朝一に人との待ち合わせ前に観てしまって、観る時間帯を間違えたと思いました。
なんとも重く、やりきれない映画です。
こう書くと観ない方がと思うかもしれませんので、最初に言っておきますがまぎれもない傑作です。
俳優としても監督しても素晴らしいキャリアを築いてきたクリント・イーストウッド監督の凄さにも敬意を表したい。
80代半ばですよ。元気でいるだけでも素敵な年代で、今描くべき問題をこれだけ多重に鮮烈に描けるとは。
この「時代を見る目」だけでも、真似たい。
アメリカの保守層にはこれを愛国的だと絶賛している人たちがいるというのですが、どう見ても反戦映画にみえるけどなあ。
イラク、シリア側の人たちの内面や状況があまり描かれなかったり、ことさら残忍な人物が出てきたりしたせいかもしれないけど。
人の感性というものは様々ですね。
観る人によって正反対の感想をもたらすという意味でも凄い。
同じくネイビーシールズを描いた実話の映画といえば
近年では『アフガン、たった一人の生還』を原作とした「ローンサバイバー」がある。
こちらは、映画の方を観ていないのですが、原作読んだ限りは本人がその時の判断や結果を悔いている様子があまりなく
仲間を失った悲痛さは感じるも、ここで相手と戦うべきなのかという葛藤や精神の崩壊みたいなものは殆ど感じなかった。
なんというか、その点に読んでいてすごく違和感を感じた。
回想でのネイビーシールズの訓練のことなどが前半に細かく出てくるんだけれども、メンタルの訓練等ってこれって一種の洗脳だよなと思うとなんともやりきれず。
アフガン、たった1人の生還は1つの作戦について描いており
アメリカン・スナイパーは、は主人公を通して、何年もに渡る戦争を描いているので土台が違う。
けれど、アフガン、たった1人の生還もアメリカン・スナイパーも前述した通り主人公自身のメンタルは似ている。
軍としての訓練にこういうメンタルを植え付けられるんだなとつくづく思った。
強靱な肉体よりも強靱な精神を保つための鎧にもなるんだろう。
アメリカン・スナイパーではその分、家族の姿が主人公と対比して描かれる。
妻が夫のかわりようにおののくようなシーン、観客が感情移入しやすい立場の人間が再三出てくるシーンがあったことで
戦争の特異さと恐ろしさが、観客の目前に繰り広げられているような緊張感を体感するようなところがあった。
ローンサバイバーの原作は、作戦中に出会った山羊飼いの少年たちを一般人として協定の範疇として見逃すか
彼らがタリバン関連の施設や人に自分たちのことを密告する、もしくは関係者であるとして射殺するかを隊員達が議論しあって見逃したことで結局窮地に追い込まれるが、1人生還したこの隊員を助けたのもまたアフガニスタンの一般国民。
敵かそうでないかがわからないという中でも、アフガンの人たちの中にも米兵にも敵と一般の人は別であるという線引きとお互いへの尊厳があったからこそ、この兵士は帰還できたといえる。
が、アメリカンスナイパーでは少年や母親といった女性がしばしば標的として撃つべき存在か、否かという場面が出てくる。
また、イラクの人もアメリカ側に協力したとわかるや否や、家族や本人が容赦なく殺されるシーンなどが出てきて
双方誰が味方で誰が敵かと常に神経を張り詰めているような場面が描かれ、疑心暗鬼なキリキリとした場面が何度か出てくる。
これが、相手の不気味さを強調するようにも思え、保守派が指示する理由かもしれない。
よくわからない相手は恐ろしいし、不気味です。
目の前にいる敵を討ち、自身と仲間、そして米国民を守る。
彼らにとってはそれが使命であり、仕事だから。
主人公が一心に前をみつめ、走り抜け自身や大切な人々を守るために戦う。
が、戦う相手にも家族や守るべき存在がいる。
死ぬと嘆き悲しむ人が居る、何が正しいのか?と疑問に思う人がいる。
そして、撮影中に起こった悲劇がエンドロールを書き換えて挿入される。
遠い国の出来事?
冗談じゃない。
日本は戦争をしたことがある国だ。
祖父母まで辿ればまだ経験者がいる。
そして、今国の防衛に関する法律が変わろうとしている。
もしかしたら憲法も変わってしまうかもしれない。
首相は、子どもたちが将来徴兵されるような事にはならないという。
だが、今だって自衛隊にいたって国を守るためには人を殺すことは厭わないなんて教育は今は受けていないはずだし
状況が変わって戦争になったり自衛隊員だけでは人が足りなくなったら、徴兵制ができるかもしれない。
過去にあったように。
以前にあったことが、現代に起きない保証はない。
そして、いつも犠牲になるのはごく普通の人。
自分やその家族や友人、知人と言った身近な人たち。
じゃあ、憲法九条を叫んでいれば平和が守れるのかと言われるけど
先の戦争でも日本は外交上の駆け引きに負けた失策や暴走があり、他国につけいるスキや大義名分を与えたのではないか。
軍事力を高める前に、もっと国民の叡智を結集し利用する場所もあるのではないか。
国の一番の資産は人材じゃないのか。
その人材を洗脳して駒として動かしていくことで国力というのは本当に維持できるのか疑問に思わずにはいられない映画。
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