永い言い訳 チャーミングな映画
- 2016.10.27 Thursday
- 18:05
JUGEMテーマ:映画
妻がバス事故に遭い亡くなった。
人気作家となった衣笠幸夫はその時間、若い愛人と過ごしており
罪悪感はあれど、心から泣くことができなかった。
妻の高校時代からの親友の女性も同じ事故で亡くなってしまった。
その女性にはトラック運転手の夫・大宮陽一と中学受験をする予定の息子・真平、まだ保育園児の娘・灯がいた。
被害者へのバス会社からの説明会で出会った幸夫と陽一。
境遇に同乗した幸夫は、週に何日か陽一の家に留守番として通うことになる。
幸夫は悪い人じゃないが、ちょっと辟易するような自意識過剰な人物。
陽一はただただまっすぐで家族を愛し、悲しみも憤りもストレートに出すタイプ。
息子は、ちょっと老成されていて聡明でなんとか家族を支えていこうと健気。
娘は、天真爛漫でちょっとガンコで可愛い。
描いている現実は割と重いのに主要人物がみんなチャーミング。
厭なところや感情を爆発させるシーンいろいろあっても、なんだかとっても愛おしい。
幸夫が灯を乗せて坂道で自転車を漕ぐシーン。
最初はまったく漕げない。
灯の亡くなった母ゆきは上まで漕げたという。
夏過ぎには幸夫も坂道を登り切れるようになる。大宮家とも疑似家族のような雰囲気に。
そして、あることをきっかけにまた不穏な空気になる。
幸夫をはじめ、登場人物達がどうなるのか、フィクションなのにハラハラし、応援してしまう。
がんばれ、がんばれ。
もがきながら、笑いながら、前進していく彼らをみてこちらも励まされる。
大人達の七転八倒も見所だけれど
子どもたちの力ってやっぱりすごい。
演技としてもそうなんだけど、幸夫も陽一も前に進むことが出来たのは
子どもたちの存在が大きいんだなあとしみじみした。
誰かのために、生きていく。
その誰かに励まされて自分自身を見つめ直していく。
そうして、前へとまた漕ぎ出す。
遺された人たちの
逝ってしまった人たちの
生きてきた軌跡とこれからの話。
見終わった後に、じわじわと温かさが感じられる良作。
登場人物たちに心を寄せてみていると、自分の背中をおされる作品です。
最後に。
こちら舞台挨拶を当てまして、西川美和監督、衣笠役の本木雅弘さん、大宮役の竹原ピストルさんも一緒にみてきました。
モッくんは鍛えているんでしょうけど、ほんとカッコイイですねー。
胸板があって、姿勢がよいのでものすごくスーツが似合ってました。
監督の念願叶ってのキャスティングだったそうで。
なのに、本木さんは、自分でよかったのかと撮影中も監督にしつこく聞いたそうで若干それが煩そうな雰囲気を出しているあたりも撮影現場が良い雰囲気だったのかなと思える距離感で面白かった。
竹原ピストルさんは、ミュージシャンだそうですが、だからこそ凄く勘の良い芝居をすると本木さんに言われてた。
泉谷しげるさんとかビートたけしさんみたいな存在感で、確かにこれからも映画に出るんじゃないかなぁと思わせる素晴らしいリアリティと存在感を持ってました。
黙っていると怖いのに、喋ると優しいみたいな今回の役柄は抜け出てきたようにぴったりにみえた。
西川監督の作品は、ちょっとした登場人物もなんというか、非常に印象的で自然な感じがする。
ちょっとドキュメンタリーっぽいというか。今回は子どもがでていたので、是枝監督の「誰もしらない」が頭をよぎった。
目の前の現実の重さを感じさせない軽やかな画っていう感じが似ていた。
予告にもでてくる深津絵里さんのまなざしが、衣笠夫妻の間の諦めのような夫婦として終わってしまったというようななんともいえない哀しいもので、この目で責められたらいたたまれないと思ったあたりで、監督の思う壺な観客でした。