レディ・ジョーカー〈下〉
レディ・ジョーカー〈下〉
高村 薫

高村薫といえばはまったきっかけは合田刑事と加納検事が登場する最初の作品「マークスの山」。なのでこの2人が登場する他の作品、「照柿」「レディジョーカー」を含めた合田&加納三部作(いや実は全然違うのだけど)は私にとって非常に大切な作品です。この2人は、ものすごく妄想を呼ぶ展開と性格をしておりまして、この2人のファンサイトがいくつもあるくらい。高村氏はその人気?に応えたかのようなラストをレディジョーカーで用意しているのですが、この辺にスポット当てちゃうとまともに映画化など無理です。なので加納検事が無視されるという形で、3作すべて映像化されているようです。レディ〜は今公開中なので必ずや観て本館に感想を書くつもりですが、きっと映画の感想としては私は満点はつけられないでしょう。最初に宣言した通り、合田&加納のコンビにものすごく思い入れのある身にとってはこの2人がじっくり描かれていない作品に満点はあげられない。しかし、映像化−特に映画の2時間という枠で事件の他に様々に絡み合う組織の思惑とこの2人の男たちの間柄を同じように描けといわれても、土台無理な話。多分この2人を中心にすると主題も内容もまったく別の作品が一つ出来上がってしまう。

ざっくり説明すると合田と加納は大学の同窓生であり、加納の妹と合田は一時婚姻関係にあった。離婚してしまっているが義理の兄弟の間柄でもある。それぞれ警視庁の刑事、特捜部の検事という立場で犯罪を追及する立場にたち、各々組織の中での矛盾に苦しみ自問しながら己を見失わずにもがいている男たち。
マークスでは30弱だった彼らが照柿で30半ばになりレディジョーカーでは36歳。これを映像化ではマークスの山は中井貴一、照柿は三浦友和、レディジョーカーは徳重聡。それぞれ演じた時の役者の年齢と作中の設定年齢がほぼ一致していたのは中井貴一だと思われるのですが、私の中ではこの3人誰一人として合田のイメージはない。私の今現在の勝手な想像からだと西島秀俊あたりがぴったりなんだけど。次点・北村一輝。この人はちょい妖し過ぎるのが難点かな。平瀬警部補あたりかねえ。蛇足ながら、映画のポスターでみる吉川晃司の半田刑事はどんぴしゃ。

この作家は連載時、本になった時点、文庫化で大幅改稿する方で結末やらエピソードが全然違っていたりするんだそうです。私は文庫で読んだものが多いのでマークスの山の展開がハードカバーと文庫でかなり違うと聞いているのですがハードカバーはどういう展開なのかよく知らない。「李歐」などは「我が手に拳銃を」がまったく別の視点で書かれているけどベースは同じ話ですし。というわけでこの作家はハードカバーで読んだ方がよい。なんか踊らされている気もしますが・・・。

Close to You
Close to You
柴田 よしき


これも火の粉と同様隣人が絡んだサスペンス。こちらは、共働きで子供のいない夫婦の住むマンションで起きる。思わず帯の斎藤由貴の解説からの引用文に惹かれて買ってしまった。早く次のページを読まなきゃという引きの強さは、「火の粉」の方があるような気がするが、これもなかなかに不気味な展開。そして男が情けない。家族が家族でいられるのはちょっとした相手への興味と思いやりで、逆に無関心になってしまったのならいつ崩壊してもおかしくはないものなのかもしれない。自分のことばかり考えている現代への警鐘かもね。

火の粉
火の粉
雫井 脩介

無罪判決を下した男がその元裁判官の隣へ引っ越してくる。その後に起きる家族の不和や不幸。男は本当に無罪だったのか?それとも?といったサスペンス。一見安定した生活を営んでいる四世代家族の中に燻る不満やちょっとした齟齬をデフォルメ気味に描き、そこにすっと隣人の男を滑り込ませる。読んでいるこちらには明らかにあやうい感じがしてどうにも落ち着かないのであるがとりあえず読み出すとやめられない的なドキドキと不気味さ満点。女同士のドロドロエピソードや世代間の考え方の違いの書き分けも巧い。実際には、こんなわかりやすい鬼小姑や鬼姑はおもいっきりTVの人生相談くらいでしか聞かないけど。悪意のない人間の刃の方がやっかいだし怖いんだけどな、ほんとは。そういう意味では男性の書いた小説(笑)そしてこの家族の男たちの情けなさと危機管理の欠如ぶりにイライラすること請け合い。これもまた極端なんでしょうけど、私がこの家の孫嫁・雪見だったら、絶対この旦那・俊郎は捨てますね。数々の雪見に対する暴言はエンディングでも払拭されることなく。私がこの作品で一番腹を立てたのは実はこの俊郎にだったりします。就職どころか結婚しても子供が生まれても親のすねを齧り続け、自分は弁護士になると学校にいくだけで家族の問題には無頓着かつ将来は自分が弁護士でガンガン稼ぐとかでかいことばかりいう。そのくせ妻に降りかかった災難に対しての冷たい反応。及び被害者意識。「受かってからいえっつーの」なぁ〜んてことを正面から言ってしまうような攻撃的な嫁は絶対にもらわないのよね、こういう男は。なぜか芯は強いがとても出来た妻をもらうのだよ。第二の母親をちゃんとGETするだけの能力があるだけに始末に負えないのだ!と勝手に俊郎という男に敵意を燃やしながら読んでました。ハイ、読み方間違ってます。映画化ドラマ化も決定したようで。最近両方での映像化ほんと多いなあ。

人のセックスを笑うな
人のセックスを笑うな
山崎 ナオコーラ

結構刺激的なタイトルで、本人のインタビューも強気。なのでえげつない感じなのかなあと思いながら読んだらこれが結構上質な恋愛小説でした。本人が「文学はエロス(愛)とタナトス(死)だと気づいた。でもまだタナトスは書けないからエロスで」といったインタビューを読んだのですが、その意味がストレートに伝わってくる作品かな。するすると読めるので1時間もあれば読了してしまいますが、それぞれの個人的な思い出に当てはまるような感情を主役の男女2人を通して巧みに表現している。
当人たちは真剣でも、周りからみたら馬鹿馬鹿しかったり、「えーなんであの男(女)なの?!」とか「なんでああまでして付き合ってるんだろう」とか外野はいろいろ思うわけです。でも、その時々の真剣な想いだとか感情だとかそういったものは本人達にしかわからない。他の人がちゃかすようなことじゃないよ、っていう内容がまんまタイトルになっている。
なかなか理屈抜きに人を好きになることは難しいわけで。条件で好きになったり嫌いになれたらラクなんですけどね。でもそれより理屈じゃない感情ってめんどくさいけど高尚なものなのかも、なんて思えてしまうお話かも。
ご本人は文藝賞授賞式でこれからの私をみていてください、絶対損はさせませんといったというから、見ていましょう。損、させないでくださいな。

博士の愛した数式
博士の愛した数式
小川 洋子

うわ〜やっぱり映画化されることになったんですね。博士に寺尾聡。義姉に浅丘ルリ子。家政婦に深津絵里。成長した家政婦の息子・ルートに吉岡秀隆。
第一回本屋さん大賞を受賞した作品。友人が「本屋さんがすきそうな本」と評したのだが、成る程なあと言う感じ。それぞれの生々しい過去や感情をオブラートに包みちょっと不思議な、でも素敵な空間を紡ぎだしている小説。事故の後、きっちり80分しか記憶が持たなくなってしまった博士。そこに家政婦として派遣されてきた私。いつしか息子と3人での時間を過ごすようになる。博士のルートに向ける大人としての態度や愛情に、ポワンと暖かくなります。
こういう時間を過ごした子供がいい大人にならないわけがない、とついつい力んじゃいます。私も博士に数学教えてもらえたら、もうちょっとマシな点数が取れた気がする・・・と大半の文学少女(青年)は思ったに違いない。

博士ですが、個人的にもうちょっとおじいさんを想像していました。小林桂樹とかせいぜい田村高廣あたり。う〜ん、これだっ!という俳優さんが今浮かんできませんが、とにかく寺尾聡は(宇野重吉にものすごい速度で近づいていますが)なんか若いイメージが抜けないんです、個人的に。

煙か土か食い物
煙か土か食い物
舞城 王太郎

次々と新作を刊行中、注目作家・舞城王太郎氏のデビュー長編。
メフィスト賞なる当たり外れのでかいといわれる奇怪な?賞を受けた作品。
最近三島賞を取ったり芥川賞候補になったり、10代の少年少女を社会情勢の事件にリンクさせた疾走感あふるる文体で、各方面から賛否両論な方です。

私の周囲ではすごく面白かったという人もいれば、「もう文体が破綻していてだめ。読んでていらいらする」といわれてしまうことも多く、かと思うと近作は逆に絶賛だったりするわけのわからん人です。

私は、といえば今あえてこの作品を取り上げているように、舞城作品ではこの作品と、そのスピンオフ作品ともいえる「世界は密室でできている」をやはり押したい。ちなみに、三島賞をとった「阿修羅ガール」は逆にちょっと苦手。
彼の作品は、文体もリズムだと思って読むと、ものすごいグルーヴ感。常軌を逸脱した展開と行動。この人は近年やはり破竹の勢いである町田康と同タイプでは。ニュータイプなんじゃないかな〜なんて思うわけです。
2人とも小難しく語られてることの多い御仁ですが、そんなん抜きにしてただただこのはちゃめちゃなべらぼうにいい加減な、映像的なストーリーで妄想を膨らませながら読むのがいいのでは。

福井の旧家での一郎〜四郎というテキトーもいいところな名前の4兄弟と父母を巡る確執。次々と起こる奇怪な殺人事件。優秀なんだかそうでないのかわからない探偵ルンババ。吹っ飛ぶ首、殴打される頭、切り落とされる手足と同一に語られるバックストリートボーイズの曲。病んだ世界と病んだ人々を疾風怒濤の筆致で描く、馬鹿馬鹿しくも破天荒な物語。
現代版「犬神家の一族」・・・なのかなあ。

骨音 池袋ウェストゲートパーク3
骨音 池袋ウェストゲートパーク3
石田 衣良


池袋ウエストゲートパークのシリーズ3作目。この表題作は、スペシャルドラマとして放送されました。作者は池袋近辺に在住らしく非常に土地鑑を駆使した作品。街中を歩きながら、ストーリーを頭の中で転がしている様がみえるような文体。と、私が実感できるのも職場の関係でよく池袋界隈は歩いているからです。なんかひょっこりマコトやタカシが出てきそう。
ただ、前2作より作中と作者の年齢差がちょっと開いたかなあ。お笑いの人をコメディアンという単語使ったりするあたりで、少し若さがないな〜と思った。
でも相変わらず「東京」という街の、なんだか得体の知れない生命感がすごく上手くて出ていると思う。都市小説として東京を舞台にしたものでは、かなり現実とだぶる雰囲気を上手に纏った小説なのではないかと。

今回の4篇のうち、「西口ミッドナイトサマー狂乱(レイヴ)」は自分の心の一部がシンクロして不安な心持ちになった。音楽(レイヴ)とドラッグの話で、現代にも息づくヒッピー文化みたいな人々がでてくる。
最近友達とヒッピーの人たちのコミューンが各地に結構あるという話題になって、無心に体を音楽に委ねて、自然に心を解放するって気持ちよさそうだけど、自我とかおかしくなったりしないのかな〜などと話していた。
ちょっと生まれる時代が違っていたら、どっぷりはまっていたかもね〜とかいいながら、でも健康保険のない生活は不安と思っちゃう自分達には出来ないことだよね〜という方向に落ち着いた。
解放と錯乱って紙一重なんじゃないかとか考えたり。ドラッグで飛ぶというのも強制的な解放の一種なのかな〜とか。
まあ、私は薬というものはどんなものでも毒がある程度あるものだと思うし、その毒に対して自分の体の耐性が強くないであろうことがなんとなくわかるので、ドラッグの力を借りてまで、自分を変えようとは思わないけど。
そう思いながら自然の中で音楽と踊りによって自分が何者でもないものになる、という状況に心惹かれていることに畏怖心があるんだろうなあ。そういうザワザワした気持ちになる題材だった。

いつかは真面目に書こうと思っていて、引き伸ばしていましたが、映画化もあり、現状の世論や世界情報から非常にタイムリーな本だと思うので感想をしばし。
「亡国のイージス」は、簡単に言うと北朝鮮絡みの国際テロを横糸にイージス艦に乗船する海上自衛官たちが、日本政府にたいして謀反を企てる縦糸があるというストーリー。
全編、登場人物たちは男ばかり。男祭りってな状態で、海の男たちのつながりとか信頼や組織への愛着等、私の好きな男同士の信頼と友情、武士の情け的な精神の様式美みたいなものがこれでもか〜と出てくる大好きテイスト(笑)
なのですが、この作品がタイムリーだというのは、日本という自分が住んでいる国にたいして、政府にたいして、一人一人がどう考え、どうなっていかなければならないのかという信念を問われている作品かなあと思うから。そんなものはない人間が大半だと作中でも言われているように、現実もまた同じようなものです。
これだけ世界中が物騒で、大きな目的のためには自分の死を捧げることを厭わないという人間が世界にはごまんと溢れているのに、戦争がなくなればいいのに・・・などと安穏なことをいっているのです。私たちは。
この自国が戦禍に巻き込まれていないとみえる状況でいられるのはなぜか?
安全だという保障はどこからきているのか?その安全が崩壊することはないのか?
どうしたら自分の自由と安全を国として守れるのか。
読みながら、自分の住む国の安全があまりにも不安定で曖昧模糊なものであることに愕然とすると思います。
それでも、自分や周囲の大切な人たちの命が脅かされる現実を前に立ち向かっていくのが人間であるということを信じたくなる小説。こう書くと少々説教臭いかもしれませんが、エンターテイメントとして二転三転どころか五転くらいする展開で、特に終盤の北朝鮮工作員に起こる一連の出来事には、そこへ着地するか〜と思わず笑いました。私は。

ところで映画化ですが、中井貴一の役柄、北朝鮮の工作員は似合っている気がします。真田広之については、原作とは別物でしょう。(真田氏が演じる役は小説では、体型が中年太りで太鼓腹という描写がでてくる)そういう意味で如月役も全然違うタイプがやるかと思い、役柄の背負う背景から結構いい年の大人がやるかと思ってましたが、その辺は原作のイメージを大事にしたみたいだなあ、と。どこを中心に映画化するのか、期待不安が五分五分。普通にやると絶対2時間じゃ終わらない内容ですから。間違っても「模倣犯」みたいなことになりませんよーに。


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